はやく許してくれ

生き恥に心をすり減らした凡愚のチラ裏

再確認

お久しぶりです。

思えばこのブログを開き、自身の身に起きたことを語るときはいつも、寂しさに襲われているときでした。太宰は水商売の女の隣で「侘しい」と呟きましたが、隣に誰も残存しなかった私ができる言葉は「寂しい」の一言に尽きるようです。

今の会社に入社して4年目を迎えました。企業としては幅が広く、一度も顔を合わせない「同期」という存在が何百名も存在しているらしく、横のつながりは無くとも、縦社会が身に染みた若者たちは、たかだか1、2年の入社時期の差異だけで、私を先輩として崇めてくださるようです。

というのも本日、縦社会よろしい弊社Gが合同になって1日のみ行われるプロジェクトがございまして、私は本番の応援要員に呼ばれることになりました。初めて顔を合わせる若手たちは、皆このような場は初めてらしく、名刺も普段持ち歩かぬ新人のようでして、挨拶の度に名刺を持参していないことを恥ずかし気に語られ、4人目にして私は名刺を交換するのではなく配り歩く日になると悟り、最終的に1人とだけ名刺を交換いたしました。そして滞りなく業務を遂行し帰路に着くことができました。

グループ内の別企業でも縦社会はキッチリと管理されているらしく、参加者の中では入社年次が厭に高い私は、敬われることとなりました。さながら裸の王様の如きです。

普段は書類仕事に追われている人間達ですから、このような現場での実務というものに随分と不慣れなようでして、名刺のことなど頭の片隅にも無い程に皆不安を一様に浮かべておりました。そういえば結局寝坊をし来れなかった者が居りましたが、おそらく目覚めは最悪だったことでしょう。土曜の早朝に業務が始まったこともあり、さぞ週明けの月曜日は憂鬱だと思いますが、私には露知らずのことです。

さて仕事ですが、渡された業務のマニュアルを読むに、やはり差し当たって難しいことは書かれておりません。これだけの規模で、説明も前日に、大きな会議室で1時間ほど概要を一方的に伝えられた情報と、マニュアル以外は持ち合わせておりません。つまるところ、身分が割れており最低限のマナーやモラルを取りそろえた人間であれば、誰でも良かったのです。結局大企業が声を大にして叫ぶ「ソリューション」というものは1人の天才の発明を1000人の凡愚が大々的に人海戦術を用いて遂行するものなのです。

渡されたマニュアルは全部で100ページ程に及んでおり、よく読むと必要箇所はほんの3ページほどという有様でした。最低限の流れだけを頭に入れましたが、私に求められているのは英語によるコミュニケーションスキルでした。つまるところ英語で日常会話を多少すればお役御免とのことです。語学力に一抹の不安のある私は憂鬱な気分でしたが、海外旅行で適当なコーヒーチェーンに数度入ったことがあれば事足りるようなレベルの会話だけで問題なく、あとはただただ暇を持て余しておりました。

暇を持て余し、若手に持て囃される若者が取る行動と言えば、ただ一つ。

調子に乗ることでした。

私は立ち仕事のストレスも相俟り、饒舌に「必要なことをしていれば良いのだろう」と大口を叩き、事実求められる業務は遂行しつつも、下の2人ほどの人間に対し2時間ほど与太話をし続けました。さぞ目立っていたことでしょう。

帰路に着く寸前、連絡先を交換し、今度酒でも飲みましょうと約束をしましたが、なるほど独りになってみると、確かに助けに来てやっている立場ではあるが、本当に調子に乗りすぎたと猛省をいたしました。

心なしか帰り際の1日限りの上司の目線も冷たく、「お疲れ様」と渡された弁当と茶は生温く、また「やってしまった」という想いが胸中を巡りました。

 

慣れた場で、持て囃され、調子に乗る。

本当に、滑稽で愚図の極みであることを痛感いたしました。

結局私は、その程度の人間なのです。

その程度の人間であるだけならともかくとし、そこを中途半端に反省するような人間であるから問題なのです。

 

下の二人と交換した連絡先からは、未だ返信がございません。

やはり喧しく、五月蠅く、鬱陶しかったのです。

 

そうしてようやく私は、久方ぶりに強い寂寞を感じ、本日心の埋め合わせに筆を取りました。せめて顔も知らぬ他人であれば慰めの一つでも貰えるのではないかと考えて。

さながらその姿は、どう見てもやはり、裸の王様でした。